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GCTとその周辺

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  グランドセントラルターミナル (GCT) の西隣りに 93 階建ての超高層ビル One Vanderbilt がこの 9 月にオープンした。ビル正面ロビーに面した Vanderbilt Avenue をつぶして GCT までの 1 ブロックを広場としたことで、 42 丁目角の GCT メインエントランスの魅力が引き出されて GCT ビル西側が生き返ったようだ。 GCT は 1903 年に工事着工、 1913 年に開業している。当時の技術と時代の要請のなかで完成した GCT から今日に至るまでいろいろと想いを巡らせるのも面白い。 GCT 以前にあった Grand Central Depot (1871 年 ) は鉄骨とコンクリートで建てられていたし、 1851 年には第一回万国博覧会で鉄骨とガラスの水晶宮がロンドンのハイドパークに建てられた。 そのように  18 世紀後期からモダンへの流れが既に始まっているなか、ローマ ギリシャ風の太い柱をデザインモチーフとして前面に押し出した古典へと回帰している GCT は 42 丁目 5 番街のニューヨークパブリック図書館とともにアメリカンボザールの代表建築として挙げられている。   アメリカンボザールとはフランス国立美術学校エコール・ド・ボザールで建築を学んだ米国の建築家が持ち帰り、ヴィクトリア様式に代わって主流となったそうだ。アメリカンボザールは「 基本的に手本となる本家ヨーロッパの建築作品と比べ一回り、ときには二回りも建築サイズが大きく、プロポーションやアカデミックな正確さなどが配慮されずに装飾が用いられ、彫が深く大味な印象を与えている。」 と Wikipedia にある。このくだり古典主義までもアメリカに来るとそうなるのかと笑ってしまった。 モダンデザインを牽引したバウハウスの創始者ワルター・グロピウスは GCT の背景に控える Met Life 、元々の Pan Am ビルを手がけている。装飾を排除し、工業技術に支えられた近代社会を体現している幾何学的なグリッドを背景に、表情豊かに建つ GCT は実に様になっている。   東隣のハイアットグランドセントラルは解体され、新しく建て替えられる予定で、いずれ GCT は三方をスカイスクレイパーに囲まれることになりそうだ。 Long Island Rail

ニューヨークらしいニューヨークへ

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  昨年3月のロックダウン以降クローズしていた NY のエンターティメントが少しずつ戻ってきました。春頃からじわじわと人出が増えたマンハッタンですが、 NY ならではのエンターティメントが再開しない限り、本来の NY ではないと感じている人は多いはず。以下、久しぶりに幕を上げたニューヨークのエンターティメントをご紹介します。 まずはブロードウェイ。 9 月初旬から「 Hadestown 」「 Waitress 」が、中旬からは「 Hamilton 」「 Wicked 」「 The Lion King 」「 Chicago 」をはじめ、元トーキングヘッズのデビッド・バーン主演「 American Utopia 」や「 Come From Away 」、 2020 年度トニー賞を受賞した「 Moulin Rouge 」など新旧のミュージカルが続々と開演しました。昨年5月初演予定だったヒュー・ジャックマン主演の「 The Music Man 」は延びに延びて今年 12 月 20 日開幕となり、延びた分だけ期待度が高まり、ジャックマン氏のプレッシャーは相当なものではないかと勝手に心配しています。 www.broadway.com カーネギーホールは 10/6 のフィラデルフィア交響楽団とピアニスト、ユジャ・ワンの競演によるオープニングナイト・ガラを皮切りに 2021-2022 年のシーズン開幕です。 10/9 にはテナーのヨナス・カウフマンとピアニスト、ヘルムト・ドイッチュが登場予定で、これまでドタキャンが多かったカウフマンがステージに立つかどうか、ファンの注目を集めています。 www.carnegiehall.org そしてメトロポリタン・オペラ。ホール閉館中はカーネギーホール同様、かつての名演を放映することで自宅待機のクラシック、オペラファンを慰め、励まし続けましたが、ライブに勝るものはありません。待望の MET 2021-2022 シーズンは 9/11 の「 Verdi’s Requiem: Met Remembers 9/11 」で幕を開けました。同時多発テロから 20 年の追悼コンサートはパンデミック後、初の演奏会でもあり、演奏者、観客、そして MET にとって感慨深いものになったことでしょう。 www.metopera.org The Metropoli

青いシェアバイクでニューヨークを走る

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 ニューヨーク市内を歩いていると綺麗に整列された青い自転車をよく目にします。この自転車、 Citi bike は 2013 年に始まったドック型の自転車シェアプログラムで、近年ではコロナパンデミックの影響もあり利用者が増え、全体で 20,000 台の自転車と 1,300 以上のドッキングステーションを完備、地域はマンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、ジャージーシティまで拡大しています。  すっかり秋の気候になった近頃、ずっと気になっていたこの citi bike をお試し感覚で数回使用した結果、とても気に入り、年間メンバーシップを購入しました。そのシェア自転車の経験を紹介したいと思います。  初めて使用する際に、まずは citi bike 専用アプリをスマートフォンにダウンロードします。配車アプリの Lyft に既に登録してあれば、個人情報を再度入力する必要がなく直ぐ 使用開始できます。料金は、1回の利用(シングルライド)の場合、 30 分間で$ 3.5 、 30 分を超えた時は 1 分ごとに$ 0.18 が加算されます。年間メンバーシップは$ 179 (税込$ 194.88 )で、 1 回ごとに 45 分間の走行が可能になります。月$ 15 という宣伝文句がありますが、月割りした金額を示しているだけで、月ごとの契約プランはありません。料金形態や利用条件、サービスなどは頻繁にアップデートされることが予想されます。  専用アプリを開くと、地図上に全てのドッキングステーションの位置と、各ステーションの使用可能な自転車の台数が実況表示されるので非常にわかりやすく、また市内のステーションの多さに驚きます。帰宅時間帯になると大型駅の周辺や、市内から郊外へ渡る橋周辺の自転車はほとんど出払ってしまうことから利用者の多さが見受けられます。  ステーションで乗る自転車を選んだら、アプリから QR コードのカメラを起動して、ハンドルの中央にプリントされている QR コードを読み取ると自転車のロックが解除され、使用可能になると同時にアプリで時間のカウントが始まります。サドルの高さ調節も簡単にでき、走行中のギアチェンジも細かく効き、暗くなると自動でライトが点くので安心です。目的地に着いたら、近くのステーションでドックに自転車を押し込み、ランプが緑に点灯したことを確認し、ア

アンティーク家具の宝庫、ハドソンバレーへの小旅行

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  Work from Home の影響により、ご自宅の家具レイアウトを変更したり、インテリアを充実された方も多いと思います。そこで今回は夏の小旅行も兼ねて、アンティーク家具のメッカでもあるハドソンバレーについてご紹介します。 マンハッタンから車や列車で 2 時間ほど北上した場所にあるハドソンバレーは、緑豊かで、農場からの新鮮な食品やワイナリーが豊富な地域です。また、国家遺産に指定される渓谷や、壮大な景観が芸術家たちにインスピレーションを与え、ハドソンリバー派と呼ばれる画家達の作品が生まれたことでも有名です。 近年ではブルックリンで活動をしていたアーティスト達が、家賃や物価上昇に伴い、新たな制作活動の場所を求めてハドソンバレーに移り住んでいることでも注目されています。こうした感度の高いニューヨーカーが集まり、歴史的文化と最新トレンドやアートをミックスさせた独自なスタイルを生み出しています。 ハドソンのウォーレン・ストリート 中でも人気があるハドソンは、ハドソン川上流に隣接したエリアで、 1609 年にこの川を初めて航海したイギリス人探検家、ヘンリー・ハドソンにちなんで名付けられました。 18 世紀後半には捕鯨船員達によって港がつくられ、工業地帯としても繁栄しましたが、 19 世紀後半から 20 世紀前半にかけては、売春やギャンブル、そして禁酒法時代には密造酒の中心地となり、州警察が違法行為を取り締まるようになると、街は衰退していきました。その後、ハドソン鉄道駅が改修されたことで不動産への関心が高まり、そして数多くの歴史的建造物の修復が行われました。 現在でも、ギリシャ復興期の家やヴィクトリア朝の邸宅など、様々な建築様式の美しい建物が沢山残っており、街のいたるところで当時の雰囲気を味わうことができます。また、安い家賃で大きなスペースを借りられる為、多くのアンティークやヴィンテージショップ、ギャラリー、カフェなどが軒を連ねています。マンハッタンやブルックリンとはまた違う個性的でヒップなお店が多く、歩いているだけで刺激を受けます。 ウォーレン・ストリートの店舗 The Antique Warehouse Hudson NY メインストリートから車で 5 分ほど離れた川の近くには、驚くほど多くのアンティーク商品を扱う倉庫があります。この巨大な倉庫は、アメリカ北東部最大規

ハドソン川の新公園 Little Island

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  今年 5 月 21 日、ハドソン川沿い 13 丁目付近のピア 54 に新しい公園「リトル・アイランド」がオープンしました。 今から2年ほど前にハドソン川沿いの9 A を車で走行中、巨大なコンクリート製の漏斗(じょうご)のような物体が川面から突き出ているのを見かけて、「なんじゃこれ?」と思わず二度見したのですが、その巨大漏斗こそリトル・アイランドの基盤となる鉢型の構造物「チューリップ」でした。 リトル・アイランドはそれぞれ形と大きさが異なる 132 個のチューリップを組み合わせて作った人口島ですが、埋め立て地のような平べったい島ではなく、宙に浮いている高低差がある空間、と言った方が良いかもしれません。広さ 2.4 エーカーの島には 35 種類の樹木と 65 種類の低木、 270 種類の多年生植物が植えられ、 687 席の屋外円形シアターと小さな舞台、遊歩道、芝生広場、売店とバスルームが設置されています。 上空から見ると島はほぼ正方形ですが、下から見る姿はなんとも不思議な形をしています。まったく新しいタイプのパブリックスペースとして、自然とアートの一体型体験を生み出すことをコンセプトに設計・デザインが進められたリトル・アイランドはその発想からデザイン、工法、完成まで、あらゆる点に於いてこれまでにない斬新なプロジェクトであることは間違いありません。 リトル・アイランドでは 8/11 (水)から4週間、日替わりでダンス、音楽、コメディ、詩の朗読など様々なパフォーマンスを上演する「 NYC FREE 」を開催します。 NY のアーティスト応援を兼ねて、不思議な人口島を訪ねてみませんか? 入園無料 午前 6 時から正午までは予約不要 正午以降の入園は事前にウェブ予約のこと https://littleisland.org/ ピア54/Little Islandトリビア   ■ピア 54 は 1910 年から 1935 年までヨーロッパと NY を結ぶ遠洋定期船の出入港地として賑わい、リトル・アイランドのサウスブリッジ入口に建つ鋼鉄製のアーチは当時の客船用ゲートの名残。 ■ 1912 年、タイタニック号海難事故で救助された生存者が上陸したのもピア 54 。 ■その後、ハドソン川のピアの多くが使われなくなり、放置、荒廃していく。 70 年代になり、ピア 54

NYフードベンダーリポート①

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  ニューヨークの街角の風景になくてはならないのがホットドッグやハラルフード(イスラムの教えに則った食べ物)、メキシカンなどのフードベンダーの数々。昔ながらのカートのほか、近年はキッチンを装備した大型バンも増えて、世界中の料理を手軽に楽しめるようになりました。 YT オフィスの近所に出店しているフードベンダーの中から、勝手きままに選んでご紹介! ①タイ料理「 LUCKYIM THAI 」 店名をなんと読むのか「?」でしたが、ウェブサイトで確認したら「 Lucky I’m Thai 」と言う意味だそうで大納得。黄色とオレンジに塗られたバン車内のキッチンでオーダーを受けてからちゃっちゃっと料理するので、いつでも熱々のタイ料理が食べられます。メニューはパッタイ、レッドカレー、スパイシーバジル(いずれもチキン$8・エビ$9)、タイ風餃子や春巻き(4個4$)など。今日のランチは野菜チャーハン($9)。新鮮なバジルと隠し味のフィッシュソースがアクセントになって中華のチャーハンとは異なる味わいで美味しい!ただし、なにげに入っているハラペーニョにお気をつけあそばせ。 場所: 46 丁目@ 5 番街と6番街の間( 6 番街寄り・スターバックスの向かい側辺り) 営業時間:月~金 11:30 ~ 15:00 www.luckyimthai.com

ボザール様式の図書館とライオン

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  ボザール様式とは パリ にあるフランス国立美術学校 エコール・デ・ボザール で 建築 を学んだ米国人 が 米国に戻り設計した建築様式を指すもので、別名アメリカン ルネッサンス とも呼ばれています。 古代ギリシャとローマの古典的な建築とルネサン ス様式が融合したスタイルで、 秩序、対称性、豪華さ、精巧な装飾を特徴とします。 米国での ボザール様式ブームは 1885 年から 1925 年までと短い間でしたが、それは米国産業が躍進的に成長した時期と重なり、その間に建てられた博物館、銀行、裁判所、政府の建物など多くの公共建築物にボザール様式が用いられました。マンハッタンで見られるボザール様式としてグランドセントラルターミナル、コロンビア大学ロウ記念図書館、アメリカ自然史博物館、カーネギーホールなどがあり、いずれも壮大で圧倒的な存在感があります。 5 番街と 42 丁目の角に建つ NY 公共図書館本館(名前に「 Public 」とついていますが官営ではなく民間の非営利団体による運営)もボザール様式です。元々あった私立のアスター図書館とレノックス図書館が統合され公共図書館となり、 NY 州知事を務めたサミュエル・ティルデンの遺贈や鉄鋼王アンドリュー・カーネギーからの莫大な寄付をもとに新しい図書館システムを構築、 1987 年、老朽化のため放置されていた配水池跡地に図書館建設を決定。設計コンペには 88 案が提出され、一次選考で 12 案が、最終選考に3案が残り、優勝は当時無名だったカレール&ヘイスティングスが勝ち取りました。 The Rosa Main Reading Room 1900 年に基礎工事開始、おおがかりな建設ゆえに工事はなかなか進まず、外装工事が終わったのは 1907 年末、塗装と内装工事が終わるには更に4年ほどかかりました。 1911 年 5 月 23 日、ウィリアム・ H ・タフト大統領が主宰して図書館の開館式が行われ、当時アメリカで最大の大理石建築物と謳われた図書館を一目見ようと 15,000 人もの市民が集まりました。 その開館式の大騒ぎを静かに見守っていたのは図書館正面玄関の左右にいる2頭のライオンでした。彫刻家のエドワード・ C ・ポッターによるオリジナルモデルをブロンクスの石工会社がテネシー産のピンク大理石で制作したもので、長